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日本食のドーナツ化を防げ

提供:一般社団法人食育日本食文化伝承協会

検定:日本食文化ジュニアアンバサダー検定

 

 

 

2013年に、日本食がユネスコの世界遺産の1つに選ばれた。

多くの人が大喜びしただろう。

しかし私は手放しで喜ぶ気分にはなれなかった。

なぜか。

その理由をここで説明する。

 

<目次>

  1. ユネスコ無形文化遺産について
    1. ユネスコとは何か
    2. 無形文化遺産とは何か
    3. ユネスコ無形文化遺産とは何か
  2. 「和食(日本人の伝統的な食文化)」について
  3. なぜ私は、手放しで喜ぶ気分にはなれなかったのか?
    1. 日本食ブーム
    2. 日本食は絶滅危惧種である
  4. まとめ

1.ユネスコ無形文化遺産について

 

さきほど私は「日本食がユネスコの世界遺産の1つに選ばれた」と述べたけれども、じつはこれは正しくない。

厳密にいうと

「和食(日本人の伝統的な食文化)」がユネスコ無形文化遺産に登録された

と述べるのが正しい。

 

1-1.ユネスコとは何か

 

日本語にすると「国際連合教育科学文化機関」となる。

国と国とが教育・科学・文化の面で協力や交流を進め、世界平和や人類の福祉につなげるための活動をしている。

大雑把にいえば、国連の中の文部科学省みたいなところか。

 

1-2.無形文化遺産とは何か

 

「無形文化遺産」とは、芸能や伝統工芸技術など、形のない文化を指す。

なおかつ、土地の歴史や民俗と深く関わっているもののこと。

 

1-3.ユネスコ無形文化遺産とは何か

 

2006年に、多くの国のあいだで「無形文化遺産の保護に関する条約」という条約が結ばれた。

ユネスコはこの条約を実行するための事務局の役割を担っている。

この条約により、「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」というリストが作成されている。

このリストに載っているものを、ユネスコ無形文化遺産と呼ぶ。

2.「和食(日本人の伝統的な食文化)」について

「和食(日本人の伝統的な食文化)」は、2013年に、このリストに載ることが決まった。

ちなみにほかにも、「歌舞伎」「能楽」などがこのリストに登録されている。

 

「和食(日本人の伝統的な食文化)」という言い方は、ユネスコ無形文化遺産に登録されたときの表記である。

つまり、定義となる。

現代日本人は「和食」「日本食」「日本料理」といった言葉を、とくに区別もせずに曖昧に使っているけれども、ユネスコみたいなところに登録するときは、言葉を決めなければいけない。

そこで「和食」が選ばれたわけだけれども、それだけでは十分ではない。

カレーライスやエビフライなどは含まれるのか、と突っ込まれる(※)。

そこで「日本人の伝統的な食文化」という言葉がつけ加えられたものと思われる。

私は当事者ではないので、あくまでも想像である。

 

(※)私の個人的見解ではあるが、「和食」という場合はカレーライスやエビフライは含まれるけれども、「日本食」という場合は含まれない。

100年後にはカレーライスもエビフライも日本食として広く認められているかもしれないが、現在のところ、私の感覚ではどちらも和食ではあるけれども日本食ではない。

私の感覚を図にするとこうなる。

おそらく私以外にも同じような感覚の人は多いのではなかろうか。

 

 

 

なお、「和食(日本人の伝統的な食文化)」という表現には、

「自然を尊ぶ」という日本人の気質に基づいた「食」に関する「習わし」

という意味がこめられているそうである。

3.なぜ私は、手放しで喜ぶ気分になれなかったのか?

前述したように、ユネスコ無形文化遺産に登録されたとき、多くの人が喜んだが、私は手放しで喜ぶ気分にはなれなかった。

ユネスコ無形文化遺産に登録されたことには、2つの側面があると私は考える。

それをここで示す。

 

3-1.日本食ブーム

 

日本食は世界のトレンドとなっている。

これはヒット曲があっという間に一世を風靡してすぐに忘れ去られてしまうような、一過性のものではない。

「ローマは一日にして成らず」というように、日本食も明治のころから始まって長い年月をかけ、徐々に世界に人気が高まったものである。

したがって、その人気は簡単には衰えない。

 

コロナ前の私は、海外に呼ばれて日本食についての講演をすることが多かった。

「包丁を持つ手にマイクを握っている」とよく言われた。

海外に呼ばれることじたい、日本食がトレンドになっていることの表れであろう。

 

じつは海外に呼ばれるようになるより前の私は、海外で日本食が人気だという実感をあまり持っていなかった。

情報が少なかったからかもしれない。

ところが、国外に出向くようになって驚いたことがいくつもある。

思いだして挙げてみると、

* アメリカなどでは、かなりの片田舎でもラーメン屋がある

*「Omakase(お任せ)」「Umami(うま味)」など、日本語がそのまま外国語になって飲食店で使われている

* 日本人がいない日本料理店なのに、日本料理人の私から見てもしっかりした日本食を出す店が多い

などがある。

日本にいるとピンとこないかもしれないけれども、日本食は海外で「日常化」している。

 

つまり、ユネスコ無形文化遺産に登録されたのは、日本食が世界のトレンドになっていることの表れでもある。

 

3-2.日本食は絶滅危惧種である

 

「ユネスコ無形文化遺産」になったと喜ぶのもよいけれども、「遺産」とは、皮肉な言葉ではなかろうか?

衰退に向かっているものほど、絶滅が危惧されているものほど、保護の対象になりやすい。

日本食も、ユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、保護の対象になったと私は思っている。

 

日本食は海外であんなにブームなのに、なぜ保護の対象なのか?

それは日本の現状を考えれば納得がいく。

現代日本人は、日本食のこと、日本の食文化のことを、あまりよく知らない。

海外であんなに日本食、日本食と騒いでいるのに、肝心の日本人は、日本食に関心を持たない。

 

「あまりに身近だから、関心を持たない」なら、話はわかる。

けれども、現代日本人にとって、伝統的な日本食は身近なものではなくなりつつある。

たとえば、今の人は、ご飯の炊きかたを親から教わらない。

親もご飯の炊きかたを知らないから、子どもに教えられない。

かつては親から子へ孫へと伝承されていた日本食の知識が、伝承されなくなっている。

 

このことは、日本人の食事がどんどん「欧米化」「簡便化(スピード重視)」していることと、無関係ではあるまい。

 

つまり、日本食は、肝心の日本で、絶滅危惧種になっている。

だから皮肉にも、「ユネスコ無形文化遺産」に選ばれてしまった。

保護の対象になってしまったのである。

4.まとめ

「和食(日本人の伝統的な食文化)」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのは、いっぽうでは日本食が世界で評価されていることの表れだといえる。

しかしまたいっぽうでは、日本食が肝心の日本で絶滅危惧種になりつつあるのかもしれない。

だから私は、「和食(日本人の伝統的な食文化)」がユネスコ無形文化遺産に登録されたと聞いても、手放しで喜べなかった。

 

私が代表をしている「食育日本食文化伝承協会」は、「日本の食文化や日本料理を、肝心の日本人が語れなくなっている」という問題意識から始まっている。

したがって、これからは「日本の食文化や日本料理について、きとんと語れる日本人を増やす活動」をしていかなければいない。

当然、私ひとりではこんな大それたことはできない。

多くの、「日本食の衰退を心配する人々」の力をあわせる必要がある。

ぜひ、心ある方々の協力をいただきたいと思う。

 

ちなみに、「海外で日本食が盛り上がり、肝心の日本で日本食が衰退する」この現象を、私は「日本食のドーナツ化」と呼んでいる。

「食育日本食文化伝承協会」は、この「ドーナツ化」と戦う協会でもある。

 

 

一般社団法人食育日本食文化伝承協会

代表理事 梛木春幸