提供:食育総研
検定:食育イノベーター検定
「食育イノベーター検定」の主催団体である食育総研。
食育総研の食育に対するスタンスや未来像を解説します。
<目次>
- 食育総研について
- 食育とは
- 食育の副産物
- 食育の昔と今
- 食育のこれから
- まとめ
1.食育総研について
食育総研の活動は「食育基本法」という法律がスタートした2006年ごろに始まりました。
通常の義務教育や幼児教育には、「先生」と「生徒」がいます。
同じように食育にも
- 食育を伝える「先生」
- 食育を教わる「生徒」
という役割分担のようなものが存在します。
食育総研は、食育の「先生」を応援することを活動の主旨としています。
ただし、義務教育や幼児教育が行われるのはもっぱら学校や幼稚園・保育所であり、したがって「先生」と「生徒」が接するのはそうした教育現場です。
これに対し、食育は
- 収穫体験などが行われる田んぼや畑
- 自治体などが開くイベントやセミナー
- 料理教室や飲食店
など、「場」はさまざまです。
また、義務教育や幼児教育では、「大人から子供へ」という流れが基本です。
つまり、子供が対象です。
これに対し、食育の対象は子供に限りません。
大人である
- 学生
- 主婦
- 会社員
- シニア世代
など、対象はさまざまです。
したがって、食育総研は
- 義務教育や幼児教育の場で行われる食育
- 子供を対象とした食育
については取り扱いません。
言いかえると、「教育現場以外で行われる、大人を対象とした食育」のみを取り扱うこととしています。
”食育総研は、食育の「先生」を応援することを活動の主旨としています。”
と前述しましたが、ここでいう「先生」とは、「教育現場以外で行われる、大人を対象とした食育」に取り組んでいる人たちのことを指します。
2.食育とは
2005年に食育基本法が制定され(施行は2006年)、食育は国の政策の1つとなりました。
食育は、食育基本法では、
食育とは生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるものであり、さまざまな経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践できる人間を育てるもの
と定義されています。
「食」は健康的な生活を送るための重要な要素の1つです。
しかし現代では、日本を含む多くの国で、
- 飽食化
- ライフスタイルや家族構成の変化
などを背景に食生活が乱れやすくなっています。
その結果、
- 肥満
- 生活習慣病
など健康上の弊害が社会問題となってきています。
こうした背景のもと、食育の重要性がクローズアップされ、食育基本法の制定にもつながっています。
3.食育の副産物
食育の中心にあるのはこうした「健康」です。
食と健康の関係について知ることで、食育基本法に書かれているように「健全な食生活を実践できる」ようになることが、食育の大きな目的です。
しかし、食育には「健康」のほかにも以下のような目的を与えることができます。
- 地域の伝統的な食文化を学び、伝えること
- 食が生産されるプロセスを学び、農業や漁業などを応援すること
- 食のマナーを学び、他者への思いやりを持つこと
- 食の流通を学び、食の無駄を減らすことの大切さに気づくこと
などです。
いわば「食育の副産物」です。
「健全な食生活を実践できる」ようになることは、おもに自分自身のためです。
これに対し、上に挙げた「食文化」「農業や漁業」「マナー」「流通」などには、コミュニケーションや社会貢献の意味合いがあると考えられます。
4.食育の昔と今
2006年に食育基本法がスタートしてからの数年間は、食育がブームのようになっていました。
たとえば、
- 食育の民間団体が数多く立ち上がりました。
- 全国あちらこちらで民間の「食育講座」が開かれました。
- 食育の先生を名乗る人が増え、民間の「食育講座」で教壇に立ちました。
- 多くの自治体で食育を担当する部署が置かれ、食育のウェブサイトを始めたり、食育のイベントを開いたりしました。
むろん、義務教育の現場などででも食育は行われました。
たとえば給食の時間に食育の「授業」が行われるなどです。
食育専門の教員免許(栄養教諭)も設定されました。
その後、食育のブームは落ち着きました。
「食育講座」が開催される頻度は減っていますし、食育の民間団体が新規に誕生することも少なくなっています。
とはいうものの、食育は国策でもあるので、流行のデザートや流行の健康食品にしばしばみられるような「極端に盛り上がったあと、まったく火が消えてしまう」といったことにはなっていません(※)。
教育現場ではいまも食育は行われていますし、「食育講座」などもときどきは開かれています。
食育の民間団体も、ブーム後に活動を止めたところもありますが、活動を続けているところもあります。
この文章を書いている現在は2020年ですので、食育基本法がスタートしてから15年近くが経過したことになります。
この間の変化としては、以下が考えられます。
- 食育という言葉が浸透した(食育を知らない人は大幅に減った)
- 大人を対象とする食育活動が少しずつ増えている
2つめの「大人を対象とする食育活動が少しずつ増えている」について補足します。
食育と聞くと、子供への取り組みと考えがちです。
じっさい、食育がブームのころ、新たに立ち上がった民間の食育団体や全国各地で開かれた食育講座は、ほとんどが子供を対象とするものでした。
おそらく子供を対象とするほうが、企画しやすかったのでしょう。
ところがそのために、もともと子供を対象とすることの多い政府や自治体の食育活動との違いが、なかなか出せませんでした。
食育ブームが落ち着いた後、子供向けの食育講座などはやや供給過剰になってしまったようです。
そうした経緯もあり、民間の食育活動はだんだんと大人を対象とするほうにシフトしはじめました。
食は生涯にわたって続く生きる基本となる営みですから、食育はどの世代にも必要な考え方といえるでしょう。
5.食育のこれから
食育がこれからどのように発展するのか、将来を予測するのは簡単ではありません。
ですが食育総研では、以下のような変化があるかもしれないと考えています。
①分業が進むかもしれない
ここでいう分業とは、食育が「子供を対象とする食育」「大人を対象とする食育」に分けられることを意味します。
おそらく、
- 政府や自治体など公共的な食育活動は、子供を対象とすることが多い
- したがって民間の食育活動は、(違いを出すために)大人を対象とせざるをえない
というような、役割分担のようなものができあがるかもしれません。
②地球環境やSDGsを意識した食育が好まれるかもしれない
現在のところ、食育の目的の第1は「健康のため」とされています。
しかしたとえば、
「健康によい栄養成分の1つとされるDHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸が魚に多く含まれているからといって、漁業資源の危機が問題視されている中、魚をほしいだけ食べてよいのか?」
といったことをこれからは真剣に考える必要があります。
こうした課題が食育のメインテーマになるかもしれません。
③目的を絞った食育が求められるかもしれない
「ダイエット目的の食事」は以前から存在しています。
入院患者が食べる「病院食」は、病気からの回復を目的としています。
最近ではプロのスポーツ選手やオリンピックのアスリートに専属の栄養指導者がつくことが珍しくありませんが、競技の性質により「筋肉をつける」「持久力をつける」など目的が異なるため、指導内容も異なってくるようです。
このように、「ダイエットのため」「病気からの回復のため」「筋肉をつけるため」「持久力をつけるため」といった目的別に、食育が設定されるかもしれません。
すでに実在している(セオリーができている)目的別の食育には、上に述べた「ダイエットのため」「病気からの回復のため」「筋肉をつけるため」「持久力をつけるため」のほか、以下があります。
- 学習能力(脳のはたらき)を高める食育
- 認知症予防の食育
- 妊活のための食育
6.まとめ
食育総研は、「教育現場以外で行われる、大人を対象とした食育」に取り組んでいる人たちを応援することを、活動の主旨としています。
2005年に制定(2006年に施行)された食育基本法がきっかけの1つとなり、それまであまり知られていなかった食育という言葉が、広く浸透するようになりました。
食育はこれまでは「健康」をメインテーマとし、子供を対象とするものがもっぱらでしたが、これからは「大人向け」「環境」「目的」を意識したものに変わっていくと思われます。
(※)デザートや健康食品にしばしばみられるような「流行が極端に盛り上がったあと、まったく火が消えてしまう」ことを、「ブーム & バースト(Boom & Burst)」といいます。